ぽたぽた

ザァザァ

ぱらぱら


雨の音はどんな表現が一番正しいのだろう
そんなことを考えながら歩く。

だってほら、信号は
青。



『絶対自分領域』



雨が降る。
傘をさす。

傘の中は視界が悪くて、他人と目を合わす必要もない。
自分だけの領域。
誰にも侵させはしない、絶対自分領域。

「なぁ獄寺!!」

ここは、絶対自分領域。

「なぁってば!!」

ここは、・・・・っ馬鹿。

「うっせぇよ」


グイッ

「ぅわッ!?何すん・・・・っ」
「前。」

・・・・・・・・・・・・電柱。


「ったく、あぶねーだろ。前見て歩かないとさ、視界悪いんだから」
「余計なお世話だっつの!!」

そう言って先を歩く。

雨は嫌いだ、子供の頃から。
大地が潤うなんてキレイゴト。

不協和音がキモチワルイ。
キモチワルイ。
キモチワルイ。


「ちっ」


そんな日にこんな馬鹿と一緒に下校なんてしてる自分も、十分気持ち悪ぃ・・・・。


「そういえばさぁー」

間を持たせようと話し出すのはいつも山本からで、適当に相づちを打つのは俺で。

雨の所為で何を話してるのかなんて全く解らないから、声が切れたところで
あぁ、と言う。

そんなまんまでひとつ、ふたつ、みっつ信号を渡った。

あと、ひとつ。

次の信号を渡ったら、そこでお別れ。
理由は、家の方向が違うから。

それだけ。

雨で声も聞こえづらいし、相づちうつのもめんどくせぇ・・・・
さっさと信号、渡っちまいてぇな

「それでさー」

「あぁ」

次の信号まで後どれくらいだっけ?

「親父がよ・・・・・・・・・・・あッ!!!」

グイッ!!!



「あっぶねー・・・・・・・・」

思わず、冷や汗。

そりゃ、眼前10センチのところを車が通過すれば。

「だから前見て歩けって言ったのに」
「うぅうぅぅ、うっせぇなッ!!!たまたま見えてなかっただけだッ!!!」

「・・・・・・ぷっ。はいはい、そのとーりなのな!!」

山本が、笑う。

「なのな、じゃねぇよ!!本当なんだからなッ!!!」

「はいはい」


何なの、訳わかんねぇ・・・・
俺、死にかけたんだぞ!?
なのに、こんな、笑いやがって・・・・・!!!

信号、まだ赤だ。
こんなワケわかんねぇ奴と一緒にいるの、ヤだ。

早く変われ
早く、早く、早く、早く、早く

変われ・・・・っ


「あ、獄寺」


くいっ


「あ?」








ちゅっ







山本の傘が俺の傘に被さって、さっきより視界が悪くなった傘の中で
山本が俺に




キス、した。



その瞬間、青に変わった信号に気づかずに
山本と傘の中で、一点で

触れ合って。

くいっ
って頭ごと寄せられた所為で、引き離せないまま。
いや、引き離せたのかもしれないけど
いつもの癖で、つい。

別に深い訳じゃなかったのに、空気が止まったみたいに動けなかった。


「・・・・・・んっ」

点滅する、青。

「・・・・は・・・ぁ」

そして、赤。
ぱたぱたと、消えたりついたりする信号みたいに俺の思考はぐるぐる回って
赤に変わるころには真っ白だった。

目の前の山本の黒い瞳には自分が映ってて。


俺は思いっきり、山本を突き飛ばした。


バシャンッ!!!


「・・・・冷てぇー」

傘も山本も俺も、別々の方向にぶっ飛んで
雨に、濡れる。

果てろ・・・・っ

聞こえないくらいに呟いた。

ぽんぽんって、何もなかったみたいに山本が俺の頭を叩いて

「獄寺ン家、寄っていい?」

だって、ずぶ濡れだろ。

って、ニカッって俺の目を見て笑う。


あぁ、今やっと気づいた。
こいつ、「寄っていい?」って聞くためだけに

キス、しやがったな。

俺が、突き飛ばすのまで解ってて。

馬鹿だな。本当に、馬鹿。普通に聞けばいいのに。
お前からの台詞だったら、それくらい・・・・

「・・・・・・ったく、しょうがねぇなぁ・・・・」

ここからだったら、お互いに自分の家に帰るほうが適切だろ。とか
自業自得だ。とか悪態つかない代わりに

「新発売の炭酸入りゼリー、おごれよ」

そう言って、ずぶ濡れのまま
遠回りしないと行けないコンビニに向かって歩き出した。


*fin.*




粗末ですみません・・・っ
別に相合い傘じゃなくても、傘が創造する個人の空間って萌えるよね!!ってノリから書き出したものです。
書いたのが、ちょうど某炭酸入りゼリーの発売されたころだったため、獄寺くんに、私の代わりに山本に奢ってもらいました笑
(2008.11.1)



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