「明日、デートしよう」

あいつが金曜の夜遅くに、わざわざ電話してきた。

俺はその勢いに断り切れずに
「・・・・・・・・・あぁ」
と一言、了解の息を漏らした。





『どこまでも幸福な日常。』





・・・ガタン・・・ガタン・・・
時折ゴトゴトと車体を揺らして『俺達』を乗せた電車が走る。

並盛は始発駅だったのか、駅に着くたびに広い車内に人がわらわらと流れ入ってきた。
前の席に二人のおばちゃんが
その席を先約して座っていた若い女の人に他の席へ移動して貰うように話し、
どかりと座り、大声で話し出した。

図々しい。
ありえない。
うるせぇ・・・・・・。

さらに前方の席で、今度は10代の女子のグループが騒ぐ様に楽しく会話する声が聞こえた。

話の内容は一切聞こえない。
ただ、「五月蠅」かった。
どうしてこうも女って生き物は、耳障りな声を気にせず吐き出せるのだろう。

うるさくて、
仕方が無かった。


もちろん、俺は独りで乗っている訳ではなく
隣にはあいつが座っている。

でも、会話をする訳でもなく。

恋人同士のように幸せそうに
ひっそりと手をつなぐ訳でもなく。
(ま、んなコトまずありえねぇんだけど。)

別々の方向を向いて、まるであたかも偶然隣に乗り合わせた男同士の様に
知らんぷり、だ。

普段とどこも変わらない、これが俺達の日常形態。

けど何か、
景色と、不快なモノが耳につまって


苛々した。



「なぁ・・・・・・」

唐突にあいつが話しかけてきた。

その後に続ける言葉が見当たらないのか、
いや、あの・・・うん、いや
と口をごもらせて

「・・・・・・・・・でいい?」

「あ?何つった??」

「・・・て・・・」

「は?もう一回」

「・・・・・・・・・」


駄目だ。
何言ってるのか聞き取れない。
『て』で『いい』??
意味解らねぇ。

「山本、おまえなぁ 何珍しく口ごもってんだよ?ハッキリ喋れっつの」

「はは・・・それもそうだな。あのさ、獄寺・・・・・・」

「ぁん?」


はっきりと、言われた。

「手、繋いでいい?」




「・・・・・・ッはぁ!?」

車内の視線が俺に集中する。
ヤバイ、大声。

とっさに手で口を覆い隠した。

そんな行動は、無意味だと知っているけれど。


そして俺は小声で、

「バカかおまえ」

とか精一杯に言う。

あいつはへらっとしていて、いつもみたいに
「なのなー。」
って顔でこっち見てる。


うゎ、ムカツク!!!



すげぇムカツクとか思ってんのに、
身体は逆にどんどん耳まで赤くなってくのが解った。




恥ずかしい?


それとも

・・・・嬉しい?


何、俺・・・・女みたい・・・・・・。


「手、いい?」

あぁ・・・『て』で『いい』って、そういう事か。



ふわり
と、左手の指先に温かみが触れて。


いつもなら、
イヤだ。とか
果てろ。とか
ガキか。とか、悪態付くけど

今日は
トクベツ、だ。


「・・・・・・・・・・・・・・・バカ本。」

きゅっ

「獄寺バカだからなっ」

「んなッ」

ぎゅうぅ

って、もっと優しく、強く。


恥ずかしいんだよ、死ねバカ。


言ってやりたいけど、言ってやんない。


好き、だから
言ってやんねぇ。

俺も相当、恥ずかしい奴・・・・・。


おまえの所為だよ

バーカッ!!!






*fin.*




は ず か し ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっっ!!!!
くっそ甘くてすみません・・・。笑
『今日はトクベツ』とか言ってますが、何だかんだで獄寺くんは山本に対して『日常=トクベツ』であってくれればいいなぁ、と思います。
読んでくださってありがとうございました。



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